歯ならび・かみ合わせの病気
歯ならび・かみ合わせの異常
歯ならびの異常とは、上下各々の歯の並び方が、スムースでない状態(がたがたになった状態)のことを言います。
かみ合わせの異常は、上下の歯が全体できちんとかんでいない(あたっていない)状態のことをいいます。
歯ならびがよいからといって、かみ合わせがよいとは限りません。
したがって、かみ合わせの異常は、素人の方には良否の判断が困難です。
歯ならびの異常・かみあわせの異常は、各々様々な問題を惹き起こすことがわかっています。
また、糸切歯(犬歯)のかみ合わせが最も重要で、犬歯同士が上手くかみ合っていないと、全ての歯の寿命が縮まる可能性があります。
歯ならび・かみ合わせの異常と歯の寿命
歯ならびと8020達成者の割合
「8020運動」をご存じですか?
ヒトの歯は、親知らずを除き上下28本がはえてきます。
8020運動は、80歳で20本歯を残すことをめざした運動で、中間目標として設定された20%は2005年の歯科疾患実態調査の時点でクリア(21.1%)され、2017年の調査では、51.2%に達しました。
ただ、とりあえず歯が存在すればカウントされるので、実際に機能している歯は少ない可能性もあります。
従って、著名な歯科医師熊谷崇先生は、「80歳で28本を目指すべきだ」 と仰っています。
それはさておき、80歳で20本の歯が残っている人は、どんな歯ならび・かみ合わせが多いのでしょうか?
歯ならびと歯の寿命:8020達成者の割合
・ 前歯の歯ならびが良い場合 → 約45%
・ 前歯の歯ならびが悪い場合 → 上顎:0% 下顎:約29%
・ 前歯にすき間がある場合 → 上顎:約6% 下顎:約4%
(その他は判定不可)
かみ合わせと歯の寿命:8020達成者の割合
上下の歯の前後的位置関係(犬歯の位置で判定)
・ 正常 → 約85%
・ 上顎前突(出っ歯) → 約15%
・ 反対咬合(受け口) → 0%
(その他は判定不可)
上下の歯の垂直的位置関係
・ 正常 → 約87%
・ 過蓋咬合 → 約14%
・ 開咬 → 0%
以上のように、歯ならびが悪い場合に歯の寿命が大幅に短くなるばかりでなく、一見歯がきれいに並んでいるもののきちんと咬んでいない状態の方が、より歯の寿命を短くすることがわかります。
今の子どもたちが歯を失ったとき、インプラントはもちろんのこと入れ歯やブリッジも保険診療で出来なくなる可能性が高い、と歯科界では予想されています。
8020と全身の健康
多くの文献において、
・ 残存歯数が20歯以上の場合に歯科医療費がは少ない
・ 残存歯数が多いほど全身の医療費は少なくなる傾向がある
ことが報告されています。また、
・ 歯周病を中心とした歯の病気の存在も全身の医療費の増加と関連する
という報告が存在します。歯ならび・かみ合わせの異常は歯周病のリスク因子ですので、この点においても歯を健康な状態で多く残すことが、全身の健康にも影響を与えることがわかります。
歯ならび、かみ合わせの異常は、単に見た目の問題では無いのです!
そもそも良い歯ならびとは?
歯ならび・かみ合わせの病気を考える前に、まず
『歯はどうやって並んでいくのか』
ということを理解しておく必要があります。
歯は厳密に設計されたようにはえてくるわけではなく、ある意味適当にはえてきます。
例えば永久歯が生え始めたとき、乳歯の真下からではなく、永久歯の横からかなりゆがんだ状態で顔を出してきた経験をお持ちの方も、多いと思います。
ところが、歯が並ぶのに十分な顎の大きささえあれば、最終的にきれいな円弧を描いて整列します。
では、何がゆがんではえてきた歯を整列させるのでしょう。
舌とバクシネーターメカニズム
乳歯より内側からはえてきた永久歯は、舌により外に押し出されます。
逆に、外からはえてきた歯は唇や頬により内側に押されます。
そして最終的に、舌が内側から押す力と、唇や頬が外側から押す力のバランスの取れた場所に並んでいきます。
唇の筋肉(口輪筋)や頬の筋肉(頬筋)、奥歯の後方の筋肉(上咽頭収縮筋)が舌に対抗して歯ならびの外側から歯ならびを保持する機能的な力のことを
バクシネーターメカニズム
と呼びます。
自然に並んだ歯は、力のつり合いの取れたところに並んでいるので、歯ならびが完成してからは簡単に移動しません。
つまり、安定した歯ならびになります。
よく噛むことが良いかみ合わせにとって必須
上下の歯は、上に説明した力により、一列に並んでいきます。
しかし、それだけでは上下の歯はしっかりかみ合いません。
歯がはえて間もない頃は、歯はまだがっちり固定されておらず、弱い力で動きます。
その時しっかり噛んでいると、上下の歯は緊密にあたるようになります。
緊密に接触した状態になれば、安定したかみ合わせになります。
歯ならび異常の種類
以下の説明は、専門家が見ると若干表現に問題を感じるかもしれません。
あくまで素人の方にわかりやすくするために、下記のような表現をしています。
叢生(そうせい)
叢生いわゆる乱ぐい歯(乱杭歯)。
歯ならびが、がたがたになった状態です。
主に前歯に起こりますが、奥歯に起こる場合もあります。
歯ならびが悪いと
八重歯(やえば) [ 上顎犬歯低位唇側転位 ]
上顎犬歯低位唇側転位糸切歯(犬歯)が他の歯より外側に生え、牙のようになった状態。
(右図黄色の部分)
日本ではチャームポイントとされる場合がありますが、欧米では、八重歯は「悪魔の歯」「ドラキュラの歯」として、嫌われています。
糸切歯はかみ合わせにとって最も重要な歯と言われています。
その糸切歯がきちんと噛んでいない八重歯の方が高齢になったとき、殆どの場合多くの歯を失います。
空隙歯列(くうげきしれつ)
空隙歯列いわゆるすきっ歯。
歯と歯の間に隙間がある状態(通常永久歯では隙間がありません)。
舌や唇の機能異常が、原因となっている場合が多いようです。
上顎前突(じょうがくぜんとつ)
上顎前突いわゆる出っ歯。
上の歯が下の歯より前に出た状態。
上あごが成長しすぎたり、上の前歯が大きく前方に傾いた場合に起こります。
下顎前突(かがくぜんとつ)・反対咬合(はんたいこうごう)
下顎前突いわゆる受け口。
上の前歯は通常下の前歯に覆い被さるようにはえますが、下顎前突では下の前歯が上の前歯より前に並びます。
過蓋咬合(かがいこうごう)
過蓋咬合上の前歯が下の前歯に大きく深く覆いかぶさった状態。
多くの場合、下の前歯が上の前歯の裏側の歯ぐきすれすれに噛み込みます。
近年この“過蓋咬合”の子どもたちが激増しており、たくさんの子どもを長年診てきたベテラン小児歯科医の間で、この問題が憂慮されています。
と言うのは、過蓋咬合は呼吸に問題を起こしやすく、子どもたちが酸素不足に陥っている可能性があるからです。
酸素不足になると、集中力がない、寝起きが悪い、落ち着きがない、就寝時にいびきをかいたり上を向いて(仰向けで)寝ない、おねしょをする、などの問題が起こると言われています。睡眠時無呼吸症候群の方の多くは、このかみ合わせです。
ぱっと見歯ならびが悪く見えませんが、実は健康上極めてよくないかみ合わせです。
過蓋咬合であるかどうかは、専門家(歯科医師)の判断を仰ぐ必要があります。
切端咬合(せったんこうごう)
上の前歯が下の前歯と先っぽ同士であたる状態。
開咬(かいこう)
開咬かんでも上下の前歯が接触せず、あいたままになった状態。
当然、前歯で食事を噛み切ることが出来ません。
舌や唇の機能異常が原因と言われています。
下あごの左右へのずれ [ 顎偏位 ]
顎偏位下あごが、左右何れかに傾いて、斜めに成長してしまった状態。
当然、顔がゆがんでしまいます。
一部の歯しか接触しない状態
一見綺麗に歯が並んでいるようでも、実は一部の歯しか接触していない場合があります。
素人の方は、多くの場合そのことに気付いておられません。
実はこの状態の方は結構多く、様々な問題(肩こり・頭痛・顎関節症・歯周病など)の原因となります。