矯正治療の種類と特徴
歯ならびが悪いのは、歯のはえるスペースが足りないことが原因です。
足りないスペースを作るためには、
・ 歯を何本か抜く
・ 歯の並んでいるアーチを拡大する
の何れかが必要になります。
但し、歯ならびが悪くなる原因は 舌・唇の機能異常、噛む回数の不足、悪いくせですので、それを治すことも同じくらい重要な治療法です。
糖尿病や高血圧に対し、薬を飲んだだけでは病気が根本的に治らないのと全く同じことです。
マイオブレイス(トレーナー)
ここ数年、取り扱う医院が急増しているのが、マウスピース型訓練装置 『マイオブレイス(トレーナー)』。
歯ならび・かみ合わせだけでなく、お子様の一生にとって重要な唇・舌の筋肉をトレーニングする特殊な形状をした、口の中に装着して使用する装置です。
もともと目的によって幾つかの種類がありましたが、5年ほど前から種類・サイズが一挙に増え、様々な症状・年齢に対応しやすくなりました。
もともとは『トレーナー』と呼ばれ、初期の代表的な装置として有名なのが、『T4k』です。
様々な種類を年齢・症状に応じ適宜使い分ける必要があり、歯科医師にとって知識と経験が必要な装置です。
幼稚園〜小学校低学年で治療を開始するのが効果的です。
もともと『トレーナー』という名称がつけられているとおり、正しい機能を回復させるための、いわばリハビリを行う装置です。
従って、正しく使用しないと十分な効果が得られません。
正しく使用するためには、その装置の必要性をお子様のみならず保護者の方にも十分理解して戴き、治療に参画して戴かなければなりません。
(2013年からトレーナーはマイオブレイスという商品名に変わりました。)
従来の矯正は、歯ならび・かみ合わせが悪くなった原因を考慮せず、歯だけを並べていました。
その結果、後戻りが必ず生じ、顎関節症という病気になったり、将来歯周病が急速に進行する原因となる場合があります。
トレーナーはその原因を治すことから始めるため、後戻りが少ないのが最大の特徴です。
オーストラリアの歯科医師が考案した方法で、徐々に進化してきており、世界的に取り扱う歯科医師が徐々に増えている方法です。
矯正専門医でも、この方法を手がける先生が増えているようです。
(このことは、矯正専門医が後戻りに悩まされている証拠とも言えます。)
マイオブレイスの補助として使用する装置
BWS
歯の並びの前後的な長さが足りない場合に使用します。前歯を前方に押し広げる効果があります。
バイオブロック
上の歯ならびのアーチが小さい場合、遅れた成長を取り戻す目的で横・前方に歯ならびを広げる装置です。
この装置単独ではよいかみ合わせには出来ないので、他の装置と併用します。
マイオブレイスの利点
お口周囲の筋肉を鍛えながら歯を並べていくので、後戻りが少なく、その人本来の歯ならびを実現する事ができます。
前歯・奥歯ともよく噛んだ、バランスのよいかみ合わせが得られます。
虫歯になりにくい矯正法です。
歯ならび・かみ合わせ異常の原因を治すことにより、お子様をより健康にする事が可能です。
治療による痛みは殆どありません。
マイオブレイスの欠点
ひどい歯ならび・かみ合わせ異常には単独では効果不十分であったり、装置自体が使用できない場合もあります。
正しく使用しないと、十分な効果が得られません。
(歯科医院での指導を守れないお子様・保護者には不向きです。)
床矯正(しょうきょうせい)
近年日本で急速に普及しつつある、取り外し可能な装置を使用し、歯ならびを広げたり、歯を動かすことにより歯ならびを治療する方法です。
床(しょう)とは、入れ歯の土台となる部分のことを表す専門用語です。
つまり、床矯正は入れ歯型の装置を使用して行う方法です。
床矯正は、悪くなりそう、あるいは悪くなりかけの時に治療を開始し、より自然な歯ならびを作る事を目的としているのが、最大の特徴です。
床矯正は、早期(幼稚園年長〜小学校低学年)に開始した場合は、もともとそれほどひどくない歯ならびであれば、この方法単独でもそこそこの結果が得られる場合があります。
床矯正を行う歯科医院は、一時どんどん増えていましたが、下記欠点のため取り扱いをやめる歯科医院、他の方法に切り替える歯科医院が増えています。
床矯正の利点
歯を抜かずに治療するのが、最大の特徴です。
取り外しできるので、装置の手入れ、歯磨きが容易です。
殆ど痛みがありません。(たまに歯ぐきが痛くなる場合がありますが、調整によりすぐ治ります。)
床矯正の欠点
奥歯のかみ合わせが崩れるのが最大の欠点です。
取り外しできるので、お子様が装置を入れてくれなければ、治療ができません。
装置の取り扱いをお子様任せにすると、トラブルが発生しやすくなります。
装置を正しく扱わないと、治療に時間がかかったり、良い治療結果が得られません。
一部のかみ合わせ異常には対応できない、或いは十分な改善が期待できない場合があります。
【コラム】 床矯正と奥歯のかみ合わせ
床矯正を行っているお子様のお母様が、
「前歯が並んだのでこれ以上の治療は望まない」
と言われることがあります。
実際、その時点で治療を終了としている歯科医院も少なくありません。
その方が治療期間が短くなり、患者様(保護者)の支持を得やすいと思います。
しかし前歯が並んだ時点では、床矯正治療中のお子様の奥歯のかみ合わせは、多くの場合かなり悪化しています。
この状態で治療を中止するのは、お子様が将来様々な病気に悩ませられる可能性があり、好ましくありません。(歯ならび異常の影響のページ参照)
以前他院で床矯正治療を受けられたお子様が、『唇がゆがんできた』と訴え来院されたことがあります。
お口の中を診察したら、犬歯の位置が好ましくないばかりでなく、 奥歯が殆ど噛んでいないひどいかみ合わせとなっていました。
残念ながら永久歯が完全にはえそろい、床矯正による修正は既に不可能でしたので、矯正専門医を紹介しました。
結局その方は、元々当院よりかなり高い治療費を払っていたにもかかわらず、別の矯正歯科で再び高い治療費を支払わなければならなくなってしまいました。
床矯正は、一見簡単そうなので手がける歯科医師が多いのですが、やがて「奥歯のかみ合わせが崩れてしまう」事に気づき、その修正の仕方がわからないため、多くの歯科医師は床矯正治療を行うのをやめるか、別の方法に移行します。
当院では現在、床矯正は使わなくなったり、後で別の方法と組み合わせることを前提にして使うにとどめています。
さくら総合歯科ベビーキッズ歯ならびクリニック院長は、お子様の長い将来にとって、この数年の手間は絶対に必要であると考えています。
お子様の矯正治療は、通常医療費控除の対象となります。
ただ、厳密に言えば
・見た目(審美性)をよくする目的の矯正治療は医療費控除の対象外
・機能を改善する目的の矯正治療が医療費控除の対象
となります。(詳しくは、厚生労働省のホームページをご覧ください。)
このことからも、機能回復のための矯正治療、即ち奥歯を含めたかみ合わせが重要視されていることがご理解戴けると思います。
マルチブラケット(歯に器具を接着し針金を通す方法)
ブラケットブラケットと呼ばれる小さな四角の金具に特殊な針金を装着して、歯ならびやかみ合わせを治療する行う方法のことを言います。
以前は、矯正治療の大部分を占めていました。
この方法は、永久歯がはえ揃ってから開始します。
つまり、わざわざ歯ならびが悪くなるまで待ってから、治療を開始することになるのです。
他の病気で、悪くなるまで待ってから治療することは、殆どありません。
また、歯を抜いて矯正を行うと歯のアーチが小さくなるので、笑ったときに口角に影が出来る場合があり、笑顔がさびしくなってしまいます。
更に、従来の方法で成人になってから前歯を矯正した方が、
『ほうれい線が目立つ様になったのが気になる』
と言っておられたのを聞いたことがあります。
(ほうれい線:小鼻の両脇から唇の両端に伸びる二本の線)
ブラケットを使う方法は欧米で考えられた方法で、黄色人種である日本人にそれが最適とは言えない場合があります。
当院では、永久歯がほぼ全てはえてしまったお子様や、歯のねじれが著しい場合など、一部のお子様に対してやむを得ず使用する場合があります。
マルチブラケットの利点
歯を微妙に動かすことが可能なので、芸能人など、究極の美を追究する方にとって最良の方法です。
取り外しできないので、子供が勝手に外して治療が進まなくなることがありません。
多くの歯ならび・かみ合わせ異常に対応が可能です。
マルチブラケットの欠点
マルチブラケットは歯の外側に(唇・頬の側)に接着し、そこにワイヤーをかけます。したがって、主に歯ならびを絞り込む(小さくする)方向に力がかかります。
そのため、歯の並ぶスペースを確保するためには、多くの場合歯を抜く必要があります。
歯を抜くことにより、
・ 歯の並んでいるアーチが狭くなり、舌が収まりきらず、気道が狭くなることがある
・ 将来歯周病などで更に歯を抜いた場合、固定式のブリッジが出来ず取り外しの必要な入れ歯になってしまうことがある
・ 後戻り現象が避けられない(せっかく並んだ歯が動いて歯ならび・かみ合わせが乱れる)
など、治療終了後に問題が生じる場合があります。
なお、歯の裏側にブラケットを装着する「舌側ブラケット」は治療難易度が高く、よい結果が得られない場合がある様なので、注意が必要です。
歯根(歯の根)が吸収する
多くの症例で、歯の根が吸収されてしまう、との報告があります。
歯の根が吸収されると根が短くなり、将来歯を早く失う原因になります。
その他の欠点
針金を交換したあと数日は、強い痛みを伴う場合があります。
歯磨きがしにくく、虫歯ができやすくなります。
虫歯ができたときにその治療がしにくい、という欠点もあります。
3Dリンガル
主に6歳臼歯(第1大臼歯)に薄い金属のバンドを装着し、それに様々な形のワイヤーを装着することにより、歯の角度や位置を修正する装置です。
主に歯ならびを拡大する方向に作用するので、奥歯が永久歯に生え替わる時期以降に治療を開始し、かつ歯を抜かずに治療する場合に必要な装置です。
治療開始が遅めの場合、歯ならびを安定させるために必要不可欠な装置、と当院では考えています。
多くの場合単独で治療が完結せず、後でブラケットにて仕上をすることが必要になります。
乳歯が抜けたり虫歯になったときに歯が移動するのを防ぐ装置
主に前歯の位置を修正する装置
主に奥歯の位置を修正する装置
3Dリンガルの利点
歯の軸を立てることが出来るので、歯に斜めの力がかかりにくくなり、後戻りが起こりにくくなります。
後方の歯の修正にも適した装置です。
歯の裏側に装着するので、外からほとんど見えません。
痛みを感じることは、一部を除いてほとんどありません。
3Dリンガルの欠点
この装置だけで綺麗な歯ならびにすることは難しく、あくまで他の方法の補助として使用します。
3Dリンガルの種類
3Dリンガルにはいくつかの種類があります。代表的なものは以下の3つです。
3Dリンガルアーチ
上下の歯に使用し、前歯を前に押したり、奥歯の角度やねじれの修正などに使用します。
乳歯が早く抜けたとき、永久歯が前に移動するのを防ぐ、“保隙装置(保隙装置)”としての役目も果たします。
3Dクアッドヘリックス
上あごに装着し、奥歯を外側に広げたり、前歯を前方に押すために使用します。
3Dクアッドアクション
下あごに装着し、奥歯の傾きを修正したり、第2大臼歯の傾きを修正するために使用します。
ムーシールド・パナシールドなど
反対咬合(前歯の前後の位置関係が3歯以上逆になった状態)の治療に使用する、特殊な形の取り外し可能な装置です。
主に就寝時に使用します。
必ず反対咬合が治るとは限りませんが、幼少期に使用すれば数ヶ月で治る場合があります。
当院では以前多用していましたが、現在は殆ど使わなくなりました。
ムーシールドとは
ムーシールドは、舌を挙上して下あごを前に押し出す力を抑制し、上唇が上の前歯を中へ押し込むのを防止する目的で考案されたものです。
硬めの材料でできています。
パナシールドとは
パナシールドは舌を挙上することで、舌と顎に付着するオトガイ舌筋を緊張させ、それにより下の顎を後退させる目的で使用する装置です。
パナシールドはムーシールドの後発品ですが、作用が若干異なります。
(作用機序は実用新案登録されています)
材質はムーシールドに比べてやわらかく、装着状態装着時の違和感が少なくムーシールドに比べて安価なため、当院では主にこちらを採用しています。
プレオルソTypeV
プレオルソと呼ばれるマウスピース型の装置で、反対咬合に使われるのは、そのうちのタイプVです。
利点
手軽に、しかも比較的短期間に受け口が治る場合があります。
欠点
全ての受け口が治るとは限りません。
受け口以外は治療できません。
アライナー・インビザライン
着脱可能な透明のマウスピース(アライナー)を用いて歯ならびを治療する方法です。
アライナーによる治療を行っているグループは複数ありますが、いずれにしても装置を何個も作り替え、徐々に歯を動かしていくのが特徴です。
ブラケットと異なり透明なので、目立ちにくい特徴があります。
主に成人に使用します。
当院でも成人の矯正治療に使用します。(小児にもまれに使用する場合があります。)
インビザラインはアライナーと同じような装置ですが、3次元シミュレーションソフトで歯科医師がコンピューターで治療計画をたて、治療開始前にすべてのアライナーを一挙に作成してしまう方法です。
正しく使用しないと途中で装置が合わなくなり、装置を大量に再作成する必要が生じる場合があります。
インビザラインは優れた方法ではありますが、高額の治療費が必要になるため、当院では取り扱っておりません。
アライナー・インビザラインの利点
透明な装置なので、目立たないのが最大の特徴です。
ブラケット矯正より、多くの場合治療中の痛みが少なくてすみます。
アライナー・インビザラインの欠点
装置の個数が多くなり、費用が比較的高額になってしまうことがあります。
臼歯(奥歯)がかみ合わなくなることがあるので、注意が必要です。
装置の装着時間が短いと、よい結果が得られません。
この方法では対応できない歯ならび異常もあります。
原因を自分で治す!
原因の除去・・・★きわめて重要★
最初に述べたとおり、歯ならび・かみ合わせ異常の原因に対するアプローチをしっかり行わないと、後戻り現象に悩まされます。
・ 三度の食事をしっかりと食べる
・ 食事内容の改善
・ 清涼飲料水を制限
・ 舌と唇の機能訓練
・ 悪いくせ(態癖)をやめる
などを歯科医院での治療と併行して行うことが必須です。
(どんな矯正法にも共通ですが、トレーナーによる治療は装置を正しく使用することにより、自動的に舌・唇の機能が改善出来ます。)